![]() 幼少期をドイツ・デュッセルドルフで過ごされ、3歳位からオペラや芝居を観に行っていたそうですが。 菅尾 ええ。劇場の多いドイツでは、子供向けのオペラや芝居が頻繁に上演されています。私も、物心ついた頃から両親に連れて行ってもらったようです。たくさんの舞台に触れることができ、それらに自然に親しむようになった、ということでしょうね バイオリンも4歳の頃から始めたということですが。 菅尾 4歳から始めて、大学まではけっこう弾いていました。でも小さい時は練習があまり好きではなかったですね。日本に帰って来てから、山本直純さんの指揮するジュニア・フィルハーモニック・オーケストラに入ったのですが、先生の音楽に対する情熱とお人柄に惹きつけられて、音楽がいっそう好きになりました。純粋に音楽を楽しむことを先生に教えていただいたことは大きな収穫でした。 アメリカ・ミシガン州に高校留学していた時代には、ミュージカル「屋根の上のバイオリン弾き」でバイオリン弾きの役を演じたり、大学時代にはアジア・ユース・オーケストラのメンバーにも選ばれてヨーロッパ演奏旅行をされたそうですね。 菅尾 留学していた高校時代には、夏秋はアメリカン・フットボール、冬はレスリングにものめり込みました。そして春はミュージカルの稽古に熱中したわけですからたいへん忙しい留学時代でした。帰国して大学1年生の時アジア・ユース・オーケストラのメンバーに選抜されて1ヵ月半ほどヨーロッパツアーに参加しました。 現在、オペラの演出に関わっていることに、これらの経験が影響をもたらしているのですね。 菅尾 そう思います。幼い時からのオペラや芝居通いも、バイオリンの先生や山本直純さんに指導を受けたことも、そして留学時代のさまざまな経験全てが今の私の舞台創りへの姿勢に影響を与えています。 大学はICU(国際基督教大学)ですね。音大に入るという選択肢はなかったのですか? 菅尾 大学では専門科目にとらわれ過ぎず、広いジャンルの勉強をしたかったので、リベラルアーツで知られていたICUを選びました。入学時に舞台関係のサークルを観て回りましたが、ピンと来なかったので、高校時代に引き続きフットボール部に入りました。しかしある時、タックルが原因で負傷したことを機にフットボール部を休部し、有志の仲間を集めて芝居やオペラの演出活動を始めました。その活動を通して、大学の有志仲間や東京芸大の活動グループ、また多くの舞台活動家に会えたことはひじょうに貴重な財産となっています。そして、その頃から並行して蜷川幸雄さんや中村敬一さんといった素晴らしい演出家の方々の助手を務めさせていただくチャンスにも恵まれました。 現在、新国立劇場で演出スタッフを務められていますね 菅尾 新国立劇場主催のオペラ公演では主に演出助手を務め、年に数回、再演演出の仕事にも取り組んでいます。 再演演出とはあまり聞きなれませんが、どんな役割りですか。 菅尾 文字通り再演の演出を行うわけですが、ある演出家が創り上げた演目を再演する場合、その初演における方向性を基本にしながら、ただの再現にとどまらない新鮮な舞台を創ることを目指しています。 この9月からの新シーズンでは、年末の「フィデリオ」と来春の「蝶々夫人」の再演で再演演出を担当します。 ところで、オペラの演出において、スコア(総譜)をきちんと読み込むという作業、これは大変なことでしょうね。 菅尾 そうですね。スコアに記された情報は何よりも大切です。登場人物の歌や台詞、またオーケストラの音符には重要なメッセージが込められています。我々には、それらを注意深く読み込み、さらにその行間を繊細に感じ取りながら埋めていく作業が求められます。つまり、作曲家のスコアに記された記号の連続を人間が演じる舞台の言語に翻訳するということです。 作品の一つひとつには、実にさまざまな上演の可能性が秘められていて、それらを現実の舞台に組み立てていく作業はひじょうに魅力的なものです。オペラの舞台では、演劇をはじめ、ダンス、映像などのジャンルの方々が、演出を手がけるケースも世界中で頻繁に見受けられます。私もそれらの方々の舞台創りには関心をもっています。 新国立劇場の新シーズンには、素晴らしい演出家が手がける魅力的な演目が目白押しです。舞台創りの一端を担う者として、ぜひ多くの方々にこれらの公演をご覧いただきたいと願っています。私自身も、世界的な演出家たちとの稽古の開始を今から心待ちにしているところです。 現在は、子供のためのオペラ公演に向けて稽古真っ最中です。私自身が子供の頃から楽しんできたように、一人でも多くの方にオペラを好きになっていただきたい、新しい世代の観客の皆さんにもぜひ楽しんでもらいたいと張り切っています。 最後に、海外留学について経験を踏まえたアドバイスを 菅尾 文化や芸術に限らず、あらゆることが国境を越えて行き交っている今日を思うと、個人における語学力や国際感覚は既に特別なものではありません。それらを自然に身につけるためにも、留学という経験はたいへん有効に働くと思います。私は留学のチャンスに恵まれたことに感謝しています。そして、留学の後、何をしていくのか。次のステップがより大切なことだと思います。 菅尾 友 1979年札幌生まれ。幼少期をドイツ・デュッセルドルフで過ごす。米国高校時代からオペラ・演劇の演出に取り組み、帰国後の大学在学中から蜷川幸雄、中村敬一氏らの演出助手も務める。次世代の舞台演出家として将来を嘱望されている。国際基督教大学卒。 |